vol.3 
ユキヤナギのバスケット
kahimi karie

2022.04.01

 

零下が続く長い冬もやっと終わり、あちらこちら
で植物が芽吹く姿を見かけるようになりました。
娘の学校は家から徒歩で15分ほど。朝夕とも、
学校へ向かう時は急いでいて辺りを眺める余裕が
ないのですが、家へ戻る道はその分じっくりと、
道端の植物を観察しながらノンビリ歩くのが
毎日の楽しみです。

 

特にこの季節は成長振りに目が離せません。
数週間前、クロッカスやスノードロップ、ヒヤ
シンスなどの芽が、土中からニョキニョキと顔を
出したなと思っていたら、たった数日で蕾をつけ
て、ポンポンと弾けるように一斉に花を咲かせた
ので驚きました。まるでビデオの早送りを観て
いるようです。しかもそんな日は決まって日差し
が暖かく、小鳥が元気にさえずり、野良猫が日
向ぼっこをする姿を久しぶりに見かけたり…。
花が一気に咲く日は、いつも安らかな時間が
ゆったりと漂っています。

 

そのサイクルは毎年繰り返される当たり前の
ことなのに、いつも初めて知ったような気持ち
になるのが不思議です。



ところで、皆さんがこの季節で一番好きな植物は
なんでしょう。私のお気に入りの一つは
ネコヤナギです。あの柔らかくて小さい、
銀白色の花穂が堪りません。

 

子供の頃、友人から手づくりのバスケットを
貰った事がありました。庭に生えている枝を
使って、叔母さんと一緒に作ったそうなのです。
ベッド脇に置いて、毎日寝転がりながら
ウットリと眺めていたのですが、しばらくすると
その枝からあの可愛い小さな猫のシッポが
たくさん生えてきたではありませんか!
それは私の大好きなネコヤナギで作られて
いたのでした。人生であんなに素敵な
バスケットに出会ったことはありません。
触るとポロッと取れてしまいそうな花穂の繊細さ
とは対照的な、枝を切られても成長を続ける
ネコヤナギの逞しさに驚き、自然の美しさに
感動した貴重な経験でした。

 

私が植物を好きになった原点の一つかも
しれません。自分でも作ってみたいなと
ずっと思っているのですが、お店で見かける
ネコヤナギの枝は太くて硬く、籠を編むのは
難しそう。いつの日か実現できたら
いいなと思っています。

 

もう一つ、私が好きなのはスミレです。
スミレの花はとても可憐で摘むとすぐに弱って
しまうのに、その反面、コンクリートや岩の
割れ目から逞しく花を咲かせている姿を時々
見かけます。種も本当に小さいのに、こんな
粒に生命が宿っているなんて不思議だと、
やはり毎回初めての事のように感じるのです。
タンポポもそうですね。
綿毛の美しさに神さまの存在を感じます。



そんな今日この頃ですが、先日、急に寒さが
戻って雪が降り、それが雨に変わった後、
翌朝にはマイナス10度まで気温が下がった
日がありました。先日の暖かさで花を
咲かせた植物達は大丈夫でしょうか。
案の定、皆んな雪や氷に覆われてしまい、
その重さに首がうなだれているようでした。



このまま枯れてしまわないか心配になり、とても
気にしていたのですが、心配は無用でした。
翌日に暖かさが戻ると、花達は何事もなかった
かのように元気になって、それどころか
前よりも、もっと生き生きとしているようにさえ
感じました。こうして春の気まぐれな寒さに
触れるたびに植物達は強くなり、次に迎える
暑い季節に使うエネルギーを貯めているのかも
しれません。

 

植物を観察していたら、気温の変化に対する
細胞の仕組みなどが気になってきたので
調べてみたところ、私達人間とも共通する
部分があったり、それから動物の冬眠の
仕組みなどに興味が広がって、
とても興味深く思いました。
いつまでも話せそうなので、そのお話は
次回にでも出来たらいいなと思っています。

 

それでは皆さん、
どうぞ素敵な春をお過ごしくださいね!

 

カヒミ カリィ

ミュージシャン、文筆家、
フォトグラファー 。91年デビュー以降、
国内外問わず数々の作品を発表。
音楽活動の他、映画作品へのコメント執筆、
字幕監修、翻訳など幅広く活躍。これまで
カルチャー誌や文芸誌などで写真
執筆の連載多数。2012年よりアメリカ在住。

http://www.kahimi-karie.com
Instagram : @kahimikarie_official

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