vol.12 
春に
三日の晴れ間なし
kahimi karie

2023.04.30
 
先日、朝からポカポカと春らしい穏やかなお天
気だったので、少し先延ばしにしていた庭の手
入れをする事にしました。雑草を取って土を耕
したり、冬から小屋で育てていた苗達を外に出
したり、植木鉢の整理をしたりなどしていたら
あっという間に時間が経ち、気付けばもう娘を
迎えに行く時間です。
午後になって気温はまた上がり、早足で歩いて
いるとうっすら汗をかくほどに。今年初めての
麦わら帽子をかぶり、タンポポでいっぱいの帰
り道をふたりでのんびり歩いていると、突然の
風に私の帽子が飛ばされて、ユラユラと揺れて
いたタンポポの綿毛達は一気に舞い上がり、白
い雪のようにふわりと漂ったかと思うと、あっ
という間に宙に消えていきました。春の天気は
本当に気まぐれです。まるで風にからかわれて
いるようだなぁと思いながら家路をたどりまし
た。

家に到着してしばらくすると、外から急にザワ
ザワとした音が聞こえてきました。何だろう?
と窓を覗くと、ついさっきまで爽やかだった空
があっという間に鼠色の雲に覆われ、まるで台
風がやって来たかのような強風があちこちの
樹々を揺らしています。そのうち大雨が窓を打
ち始め、ゴロゴロとカミナリまで鳴り出しまし
た。
「風の音って何だかワクワクするなぁ」と娘は
呑気に外の景色を眺めています。急いで寝室の
窓を閉めに行くと「あ、小屋のドアが壊れた!
勝手に開いて飛んでいったよ!」と娘の声。ま
さかと思いきや窓から首を出して庭を覗くと、
飛ばされ落ちたドアと隣家の庭側にバタンと倒
れた古い木製のフェンスが目に入り驚きまし
た。
真夏のような嵐も30分程もすると嘘だったかの
ようにピタリと鎮まり、鳥の鳴き声と一緒に再
び穏やかな春空が戻ってきました。
恐る恐る外に出てみると、辺り一面びっしょり
に濡れた庭のあちこちにシャベルやジョウロ、
今朝小屋から出したばかりの苗のトレ-も全て
飛ばされて、庭の端のようにまで散らばり落ち
ているではありませんか。地面に投げ出された
小さな苗を集めながらしばらく庭に佇んで唖然
をしていましたが、まぁだいじょうぶと、割と
すぐに諦められたのは自分でも不思議に思うほ
どでした。雨上がり独特の何とも言えない草の
香りと、夕焼けの優しい光がとても心地良かっ
たからかも知れません。
春に三日の晴れ無し。一瞬の嵐は見事なほどに
庭の綿毛も全て吹き飛ばし、ヒョロヒョロとし
た間抜けな風貌の茎だけがノンキにゆらゆらと
揺れていました。

 

カヒミ カリィ

ミュージシャン、文筆家、
フォトグラファー 。91年デビュー以降、
国内外問わず数々の作品を発表。
音楽活動の他、映画作品へのコメント執筆、
字幕監修、翻訳など幅広く活躍。これまで
カルチャー誌や文芸誌などで写真
執筆の連載多数。2012年よりアメリカ在住。

http://www.kahimi-karie.com
Instagram : @kahimikarie_official

 

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