vol.13 
グラウンドホッグと私
kahimi karie

2023.08.14
 
例年にない猛暑が続いていますが、皆さんお元気に
していらっしゃいますか?
 
こちらもやはり昼間はうだるような暑さですが、夕
方になると数十分だけバケツをひっくり返したかの
ような雨が降る日が多く、日暮になると暑さが段々
と和いできます。薄暗い庭に出ると濡れた草の香り
がうっすらと漂い、虫の合唱の中でホタルの光がふ
わふわと飛んでいるのを見かけると1日の疲れが癒
されていくようです。昔、浅草で買ってきた吹きガ
ラスの可愛い風鈴が、今夜も窓辺でチリンチリンと
涼やかな音を立てています。
子供達は夏休みに入りましたね。我が娘も6月にミ
ドルスクールを無事卒業して、3ヶ月という長い夏
休みが始まりました。娘はこれまで私と一緒に過ご
す事がほとんどだったのですが、今年の夏はクラス
メートの家族のお誘いで海辺の貸別荘に泊まりに出
かけたり、週末は映画やパジャマパーティーに呼ば
れたりして家を留守にする事が増えてきました。逆
に留守番もできるようになってきて、私が外出中に
洗濯をしてくれたり、私が食べてみたいと言ってい
た焼きリンゴをサプライズで作ってくれたりなど、
成長振りに驚かされる事の多い今日この頃です。

 

ところで少し前に、私のインスタグラムで我が家の
庭に住み着いているグラウンドホッグの家族を紹介
した事のですが、夏休みになって私達が家を空けて
いた間に3匹の子供達が目覚ましい成長をしていて
驚きました。

グラウンドホッグはウッドチャックとも呼ばれてい
ているリス科の動物で、サイズは太った成猫をもう
少し大きくしたくらいでしょうか。目がクリっとし
ていて毛は茶色くズングリとした風貌です。普段は
ノンビリしていますが見慣れないものに出会うと意
外に逃げ足が早く、ササっと素早く巣穴に退却して
しまいます。なので私が庭仕事をしているといつも
姿を隠してしまうのですが、彼らの住処は我が家の
窓の向かい側にある小屋の床下にあるので、窓から
こっそりと近距離で観察出来るのです。

 

今春のある日、ふと窓の外を覗くと、巣穴から3匹
の赤ちゃんが次々と顔を出したのを見つけて以来、
彼らの暮らしぶりを眺めるのが日々の楽しみになり
ました。ちっちゃな赤ちゃんが大きなあくびをして
いたり、クモの巣が絡まった鼻を小さな手でカリカ
リとしていたり、ある時は育児疲れで毛がボサボサ
のお母さんが巣穴から顔だけを出して昼寝をしてい
たり、かと思うと赤ちゃん達が3匹で戯れて遊んで
いたりなど、その姿はどれも余りに可愛くて目が離
せません。窓際で肘を着いて眺めていると、つい時
間を忘れてしまいます。野性動物の暮らしぶりをこ
んなにじっくりと観察できる経験はは初めてで、と
ても貴重な経験になっています。

 

しばらくすると、どうやら彼らはただ可愛いだけで
はない事が分かりました。草食性で食いしん坊の彼
らは庭の野菜や草花を遠慮なく食べてしまうので
す。そういえばNYの郊外で家庭菜園をしている友
人が「可愛いけどガ-デナ-泣かせなんだよね」と
言っていたのを思い出しました。でもまあちょっと
くらい食べられもいいよねと思っていたのですが、
ある朝コスモスの苗が見事に食べ尽くされているの
を見た時から、さすがに呑気ではいられなくなりま
した。さっそく『グラウンドホッグが嫌いな植物リ
スト』を参考にして、彼らの好物の野菜や花に柵を
するようにミントや紫蘇、ラベンダーやオレガノ、
トウガラシなどを植えてみたところ、ある程度マシ
にはなりましたが、未だ油断はできずイタチごっこ
の日々が続いています。あの可愛いすぎる姿を見て
いると全く憎めないのが救いですが、種から大切に
育てた植物達が次から次へとグラウンドホッグの採
れたてサラダになるとは想定外でした。

 

そんな風にちょっとした事件はありつつも彼らの姿
を相変わらず愛でていたのですが、最近、私達が我
が家をしばらく留守にして戻ってきたら、以前のよ
うに彼らが家族一同で過ごしている姿をあまり見か
けなくなってしまったので、少し心配になりまし
た。近頃は一番やんちゃな子とお母さんがそれぞれ
一人で出入りする姿しか見かけません。調べてみる
とグラウンドホッグは出産や子育てのシ-ズン以外
は基本的に一人暮らしをするらしく、どうやら父親
や他の子達はそれぞれ別の巣穴に移ったようでし
た。

 

ついこの間まで子供達はお母さんにべったりでいつ
も3匹で戯れていたのに、たった数ヶ月であっとい
う間に成長して巣立ってしまうなんて。体もずいぶ
ん成長して、柔らかそうな毛並み以外は母親とあま
り変わらなくなったのにも驚きました。毎日楽しみ
にしていたので寂しいですが、子供達に巣立ちの時
期がきたようです。

グラウンドホッグに比べたら私達人間の成長はゆっ
くりですが、娘を出産した時の事を振り返ってみる
と、やはりついこの間の出来事だったような気もし
ます。最初は子育てに必死で寝不足なのもあり時間
の感覚が変わるせいか、それがずっと続くような気
分でしたが、過ぎてみるとあっという間でした。

 

庭仕事をするようになってから植物のサイクルを知
ることが出来たりなど学びが多いなと思うのです
が、今回、グラウンドホッグの生態を間近で観てい
ると植物にはない親近感を感じるからか、より考え
させられる事が多くて興味深いです。

 

若い頃は気にしていなかったけれども、私の両親や
姉妹達も気付けばそれぞれの場所で、それぞれの人
生を送っているのだと…そんな当たり前の事を思
い、子供の頃に住んでいた家の壁紙や、父親が仕事
が終わって家に帰ってきた時の声や、お風呂上がり
に姉妹でお揃いの寝巻きを着ていたこと…そんなち
ょっとした昔の思い出がたくさん想い浮かんで無性
に家族が恋しくなりました。
大切な人と過ごせる時間は本当に貴重でかけがえの
ないものだと改めて思います。

 

これからも沢山そんな時間を作れたら幸せだなと思
うこの頃です。

 
 
カヒミ カリィ

ミュージシャン、文筆家、
フォトグラファー 。91年デビュー以降、
国内外問わず数々の作品を発表。
音楽活動の他、映画作品へのコメント執筆、
字幕監修、翻訳など幅広く活躍。これまで
カルチャー誌や文芸誌などで写真
執筆の連載多数。2012年よりアメリカ在住。

http://www.kahimi-karie.com
Instagram : @kahimikarie_official

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