vol.6 
種の不思議
kahimi karie

2022.07.28

 

庭のジギタリスが最近、種を付け始めました。
ジギタリスの英名はFoxglove(フォックスグ
ローブ)、その由来は妖精がキツネにジキタリ
スの花を手袋として贈ったというお伽話からだ
そう。
春から夏にかけて草丈が1mを超えるので存在感
がありつつ、どこか可憐で素朴な雰囲気もあって
大好きな花です。

初めてその種を植えたのは一昨年の秋でした。
ジギタリスは種を蒔いてから翌々年にやっと花を
咲かせる2年草なので、やっと蕾をつけてくれた
時の嬉しさは特別です。
今年の春には草丈が私と同じくらいにもなり、と
うとうアプリコットやピンク色の素敵な花を咲か
せてくれたので、毎日何度も庭に出てはうっとり
していました。

 

ちょうど、1度目の花が咲き終わった頃に引越を
することになったので、枯れてしまわないかちょ
っと心配だったのですが、新しい庭でも次々と花
を元気に咲かせてくれているのでホッとしていま
す。

 

日陰や氷点下にも強く育てやすい植物で、植木
鉢でも育てられるのでおすすめです!猛暑にも
負けず、いまだ脇芽を出したり蕾を付けている逞
しいジギタリスですが、咲き終わった花をそのま
まにしていたら、少しづつ鞘が出来て種を付けだ
したので採ってみると、とても小さくまるで粉の
ようなので改めて驚きました。

 

少し前に秋に向けてコスモスや矢車草の種を蒔い
たのですが、長細いものやコロコロとしたもの、
綿毛に飛ばされるものなど、花と同じくらい種に
も個性があって面白いなと思いました。

 

毎年、種を蒔いたり収穫するたびに、1ミリにも
満たない小さな粒でも季節をしっかりと感知して
芽を出し、短期間のうちにぐんぐん成長し、沢山
の花や実を付けることを不思議に思います。

 

過酷な環境の砂漠で種が芽を出す仕組みなどは
最新のコンピューターよりも高性能なのではと思
ったり、また、縄文時代の遺跡やツタンカーメン
のお墓から見つかったハスやエンドウの種が、2
千~3千年間も休眠して、その後発芽して花を咲
かせたという話は、まるで魔法のようでさえあり
ます。

 

そんな種々に詰まっているもの。
それは、40億年近くをかけて進化してきた生物
の歴史なのだなと思います。小さな粒に適度な温
度と水分、そして光を与える事で、陸に上がるま
で三十億年あまり、陸に上がって5億年の歴史を
経て進化した植物の姿が作られていくのです。

 

そしてもし、その小さな粒がみな失われたとした
ら、沢山の種類の植物達も背景にある長い歴史も
永遠に失われてしまうのです。

 

庭で成長する植物達を眺めていると、そんな事に
思いを伏せます。植物は一見静かで穏やかです
が、実はその中に力強いエネルギーが満ちてい
て、私達生物達に大きな影響を与えています。そ
して私達が毎日頂いている食事や肌につけるもの
も、その逞しい生命力を頂いているのだと思う
と、生命のエネルギーというものは循環している
のだなと思うのです。

 

カヒミ カリィ

ミュージシャン、文筆家、
フォトグラファー 。91年デビュー以降、
国内外問わず数々の作品を発表。
音楽活動の他、映画作品へのコメント執筆、
字幕監修、翻訳など幅広く活躍。これまで
カルチャー誌や文芸誌などで写真
執筆の連載多数。2012年よりアメリカ在住。

http://www.kahimi-karie.com
Instagram : @kahimikarie_official

← 前の投稿 新しい投稿 →