vol.7 
秋は新しい春への
種まきの季節
kahimi karie

2022.09.21

 

長いと思っていた夏も過ぎてみるとあっという
間に感じます。

 

今年の夏はとても久し振りに帰省して、家族や
親友達と大切な時間を過ごす事ができました。

気付けば海外暮らしも長くなって、フランスに
住んでいた時期を含めると約20年になるのです
が、3年間も帰省出来なかったのは初めてだっ
たので、飛行機から降りた瞬間から嬉しさに胸
がドキドキするほどでした。

 

こんなに長く離れていると、頭の中にしっかり
入っていたはずの都内路線図もうる覚えになり
ます。都市開発やデジタル化など街の変化に
驚くことも多くて、初めて渋谷で迷ったりなど
何かと珍道中でしたが、逆にそのお陰でちょっ
とした事も新鮮で面白く感じました。今回の滞
在は今までと違って短期間で、またちょうどコ
ロナ禍のピ-クだと言われていた時期だったこ
ともあって外食や移動も最低限にせざるを得な
かったので、地方への旅や友人達に会える時間
も限られてしまいました。でもその分、家族と
過ごせる事をこれほど貴重に感じたこともなく
忘れがたい大切な思い出がたくさん出来たと思
います。

 

アメリカに戻る飛行機の中で小さいスクリーン
のフライトマップをぼっと見つめながら、次に
帰省出来る間に自分が今よりも成長できるよう
毎日を大切に過ごしたいと、何度も思いました。


そんな感じで私も娘も東京を離れるのが切なく
て後ろ髪を引かれる思いでしたが、久しぶりに
戻った我が家はアメリカの田舎らしい大らかで
穏やかな時間が流れていて、自分のベッドにゴ
ロンと寝そべって天井をぼんやりと眺めたら何
だかホッとした気持ちになりました。

 

しばらくの別れや恋しい東京の景色、沢山の気
持ちを抱えつつ、どうしていつも自分は遠い場
所へと旅立つんだろうと自分でも不思議に思い
ます。

庭へ出ると、出発間際に露地植えしたコスモス
や矢車菊などの苗が成長してもう花を咲かせ初
めていたり、夜になると初秋らしい虫の声の大
合唱が星空の下で響き渡り、時差ぼけで早朝に
目を覚まし窓を開けたら、ピンク色の朝焼けに
濡れた緑の香りが心地良く、髪はボサボサでパ
ジャマのまま裸足で庭に出て深呼吸をしました。

娘の新学期も帰国早々にスタートし、朝からド
タバタ気味の日々がまた始まりました。秋は翌
春に向けての種まきの季節、気持ちも新たに背
筋が伸びる思いです。夏に集めた小さな幸せの
カケラで胸の中は元気いっぱいです!

 

 

カヒミ カリィ

ミュージシャン、文筆家、
フォトグラファー 。91年デビュー以降、
国内外問わず数々の作品を発表。
音楽活動の他、映画作品へのコメント執筆、
字幕監修、翻訳など幅広く活躍。これまで
カルチャー誌や文芸誌などで写真
執筆の連載多数。2012年よりアメリカ在住。

http://www.kahimi-karie.com
Instagram : @kahimikarie_official

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